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~寄り添う看護~仁誠会クリニックながみね病棟から

コロナ禍の中で、入院患Kさんとの関わりを通し「寄り添う看護」について考えさせられた体験がありましたので紹介します。

Kさんは寝たきり、感情や意思の表出が困難な長期入院中の方です。ご主人はこれまで週2回ほど面会に来られ身の回りのお世話をされていました。面会時はいつも笑顔で優しく声を掛けられ、身体をさすったり頬をなでたりし、Kさんはそれに応えるように安心した表情をされていました。

しかし新型コロナ感染拡大に伴い面会制限がかかり、会うことができない状況となりました。Kさんにもご主人との面会ができなくなったことをお伝えしましたが、理解は難しかったことでしょう。ご主人と会えない日が長期化していたある日、病室を訪れるとひとり嗚咽して泣いているKさんの姿がありました。驚き、どうしたのかと尋ねると、「帰りたい」との言葉が聞き取れたのです。

感染対策としての面会制限は否めないことではありますが、その裏でA氏には、ご主人へ会えない寂しさ、不安が募っていたのでしょう。私たちはKさんの言葉にできない心の声に気づいていませんでした。一目だけでもご主人に会って安心していただきたい、Kさんの思いに寄り添うために私たちに出来ることはないかと皆で知恵を絞り、ガラス越しに面会していただくというアイデアが生まれました。
早速ご主人へ連絡したところとても喜ばれ、面会当日はKさんの衣服や髪を整え、ご主人の案内、ベッドを窓ガラスへ移動、撮影など多くのスタッフが協力してその時を迎えました。ガラス越しでもはっきりとご主人の声は届きました。ご主人の満面の笑みを受け、Kさんの表情もほころんでいました。そのようなお二人の様子に私たちスタッフもついつい興奮してしまいました。

当日の様子はこちら

看護部では毎月「看護を語る会」を開催し、患者様の心情を理解し、思いに配慮した関わり方などについて語り合っています。ガラス越し面会の後、「患者に寄り添うとは」をテーマに語り合う機会を設けました。その中で、お元気で生活されていた頃のKさんを知るスタッフからその頃のエピソードを聴き、Kさんのこれまでの人生や、病気と闘ってこられた思いなどについてもっと知りたいとの意見があり、後日ご主人へインタビューをさせていただきました。
お話の中で私たちが知り得なかった、夫婦の歴史、苦悩、また今後の夢についても伺うことが出来ました。叶わなかった夢、これから成し遂げたい夢、様々な思いを共有させていただきました。私たちは患者ご本人へ寄り添うことはもちろんですが、ご家族様にも寄り添っていくことが大切であることをあらためて教えていただいたように感じます。

その後一時面会が解除され、病室でご主人と15分程の面会が出来ました。なんとも驚いたような嬉しそうな表情をされたKさんの様子が忘れられません。現在は再び面会制限中ですが、枕元にご主人の笑顔を見られるようにと写真を貼飾っています。洗濯物が届くたびにご主人からのメッセージをお伝えするなど安心していただけるような声掛けをしています。もう涙は見られません。

寄り添う看護 寄り添う看護

この体験は仁誠会看護部で昨年度から開催されている「看護甲子園」でも発表しました。ご主人の夢である二人で満開の桜の下での記念撮影、今年叶えるため企画中です。
今だからこそできること、しなければならない事があるはずです。看護の仕事は未知数です。悩み・戸惑いながらも患者さんに寄り添う看護の提供をしていきます。

仁誠会クリニックながみね 看護部 衛藤喜美子